コレクティブハウスの暮らし大賞

第0回 コレクティブハウスの暮らし大賞

文章・エッセイ部門:004
「花火の夜のスープカレー」

 十一月七日の夜のことです。
 日が暮れて間もない五時半ちょっと前、「極秘情報」と前置きをしたメールが届きました。コレクティブハウス聖蹟の居住者全員に届くメール宛てに「今から十分後に花火が上がります。ハウスの屋上からは見えません。いろは坂に見に行く方は今すぐ集合してください」と。
 突然だったので、集まったのはメールをくれたTさんと私、それにハウスの子供たちが四人だけでした。車の多い道を行くので、私は五歳の子供二人と手をつなぎ、歩き始めました。 
 私は今年の夏に越してきたばかりの五十五歳の女性です。独身で一人暮らし、もう何年も花火なんて見に行くこともありませんでした。いつも遠くの花火の音を聞きながら、部屋の中でひとりぼっちでいたのに、子供と手をつないで花火を見に行くだなんて、なんだか信じられませんでした。
「わあ、花火だ!」「すごいすごい!」
 密を避けるために予告なしで上げられた花火をみんなで見て、一緒に大声を出し、はしゃぐ。たった数分のことでしたが、数ヶ月前までの一人暮らしでは決して味わえない、とても豊かな時間でした。大きな花火が上がると、「わっ、こっちに来る!」と感受性の豊かなSちゃんがぎゅっと手を握りしめるので、写真を撮ることはできませんでしたが、写真より、私の手を握ってくれる子供の存在が嬉しかった。(写真は後でTさんが送ってくれました)私には子供はいませんし、子供と一緒に暮らすことが自分の人生に起こるなんて、想像もしていませんでしたから。
 部屋に戻り、ぼんやり花火の余韻に浸っていると、突然ピンポンピンポンと、けたたましく呼び鈴が鳴りました。扉を開けると、さっきまで一緒にいた五歳のHちゃんが立っていました。
「ちょっと来て」

 なんだか切羽詰まった顔をしているので、どうしたの、と訊くと、「お父さんを手伝って」と訴えます。「お父さんがひとりでミールを作ってて、さっきみんなに手伝ってってメールをしたんだけど、誰も来ないの。お父さん困ってるから、助けてほしいんだ」
「わかった」私は即答しました。「今、エプロンつけるからちょっと待って」
 実はHちゃんのお父さんからのメールには気づいていました。でも、ちょうど花火を見ている間に送られていたので、時間もたっているし、もう誰か行っただろうと思っていたのです。
 Hちゃんがお父さんのために私を呼びに来てくれた。大人として、これに応えなければと思いました。Hちゃんは、私ならお父さんを助けてくれると見込んで、助けを求めてくれたのですから。
「手伝いに来ましたよ!」
 そう言ってコモンキッチンに走り込むと、お父さんは驚き、そしてとても嬉しそうに笑ってくれました。


 この日のメニューはスープカレー。チキン、じゃがいも、にんじん、かぼちゃ、アスパラガスにエノキダケ、蓮根、ブロッコリー。たっぷりの野菜は全て素揚げし、ごはんにはレモンを搾る本格派。

 テキパキと働くお父さんと私を、Hちゃんはニコニコ見ていました。


 子供のいない私が子供と暮らす。親でも親戚でもない、同じハウスの住人として。そのことの意味は、正直まだよくわかりません。

 けれどもいつか、ここを出るとき、私はきっと思い出すでしょう。今夜のこと。Sちゃんと手を繋ぎ、みんなと一緒に見た花火の美しかったこと。Hちゃんに頼まれ、一緒に作ったスープカレーの美味しかったこと。一緒に過ごした時間の、とても豊かで楽しかったことを。