コレクティブハウスの暮らし大賞

第0回 コレクティブハウスの暮らし大賞

文章・エッセイ部門:005
「まだ子どものいない私と、子どものいるくらしの風景」

入籍してまもなく、東京に転勤することになった。
 いま、私はひとりでコレクティブハウスに住んでいる。けれど、ここの暮らしは、ひとりじゃない暮らしだ。
 
 数年振りの東京ひとり暮らし。はじめに選んだのは、普通の賃貸住宅だった。まちは多少変わっていたが、隣人が誰かわからない不安、ひとりの寂しさ、孤立感は変わらなかった。
 しばらく経ってから、あるきっかけで、再度引越しを考えるチャンスがきた。今度はもう少し、他人とつながる暮らしができないかと考えた。人から聞き、インターネットで検索して、辿り着いたキーワードが「コレクティブハウス」だった。
 早速見学に行き、コモンミールを体験し、定例会に参加した。居住者同士で一緒につくっていく、顔の見える暮らし方。初めて見る顔ぶれに、ここで暮らしていけるだろうか・・・と、迷いがなかったわけではない。
 入居の大きな決め手は、「子どもたちがのびのびと遊んでいる風景」だった。
 コモンミールでは、居住者仲間が同じテーブルを囲む。家庭も年齢もバラバラな居住者たちが集まる。そのそばには、食後のおもちゃ遊び、学校行事の確認、流行りの漫画の話など、にぎやかで楽しそうな子どもたちの存在がある。ここなら私も安心して住めるし、遠方にいる夫もほっとするだろうと直感した。きっと、子どもにとって居心地のよい場所は、大人にとっても安らげる場所なのだろう。
 こうして私のコレクティブハウス生活が始まった。
 休日の朝、布団にもぐって二度寝していると、玄関の外で子どもたちのはしゃぐ声で目が覚める。季節の変わり目には、一緒にテラスの花苗の植え替え。台風の日のコモンルーム映画会。仮装した子どもたちが各戸をまわるハロウィン。子どもたちと作ったケーキを囲み、クイズを楽しむクリスマス会。コロナ禍では、子どもたちも含めたみんなで、過ごし方を考えることもあった。
 引越ししてしばらく経った頃、夫が私の暮らすコレクティブハウスにやってきた。「ここの子どもたちは、自分の親がいなくても、親ではない大人と一緒に食事しているんだね」と面白がっていた。今の私にとっては自然な光景だが、振り返ってみると、大人として自活を始めてからコレクティブハウスに住むまでの間、私の生活に子どもの存在はほとんど無かった。なんて不自然だったんだろう。
 私と夫も、いずれ自分たちの子どもに出会えればと思っている。だけど、これまで私たちには、子どものいる生活を想像する機会がほとんど無かった。子どもは遠い存在だった。
 けれど、コレクティブハウスの暮らしの中で、子どもが与えてくれる明るさ、暖かさに触れることができた。最近の私たちの夕食の話題のひとつは、コレクティブハウスで暮らす子どもたちのことだ(なんて、当の子どもたちには内緒だけど)。いまや彼らは子どものいる生活を私たちにイメージさせてくれる貴重な存在になっている。
 もちろん、子どもだけじゃない。人生の先輩も、違う人生を歩んできた人も、助け合いながら暮らしている。そんなコレクティブハウスの日常が、実はとても貴重なものなんじゃないかと思って、日々を過ごしている。