新たな社会的住宅事例集

【case7】ゆいま〜る高島平

団地の空室を生かした分散型サ高住

戦後世代が後期高齢者となりつつあるなか、高齢者住宅に求めるものも大きく変わっている。ひとつの住棟にまとまって住まわせる効率重視の「サービス付き高齢者住宅」は早くも敬遠されつつある。「ゆいま〜る」シリーズとして全国で高齢者住宅を手がけてきた(株)コミュニティネットは、一棟ごとによりよい事業モデルを模索、運営手法にも磨きをかけてきた。なかでも転換点のひとつといえるのが、団地の空室対策とコミュニティ再生を同時に図った「ゆいま〜る高島平」(2014年オープン)だ。

【建物の状況】団地建て替えまでの有効活用事業期間は20年と区切る

「ゆいま〜る高島平」は、日本住宅公団(現UR都市機構)が1970年代に開設した高島平団地のなかの1棟にある。現在もおよそ8500世帯が暮らすマンモス団地だが、賃貸住戸には数多くの空きが出始めていた。耐震工事済みの11階建て、121戸のうちの空室30戸を借り上げ、分散型サービス付き高齢者向け賃貸住宅とし、2014年12月にオープンした。その後、空きが出るに従って戸数を増やし、現在は全42戸となっている。

もともとファミリー向けの2DKであった部屋なので一戸当たりの専有面積は約42〜43m2と、老夫婦や単身で暮らすには格段に広い。(株)コミュニティネットが空き住戸を事業期間20年契約で借り上げ、60歳以上の高齢者に転貸するというかたちをとっている。事業期間終了時には建物は築約70年、すみやかな建て替えまでを想定しての計画である。

内装工事は一住戸あたり約500万円で、車いすでも生活できる室内バリアフリー化など、全面リノベーションを実施。入居者は好みに合わせて3タイプの1DK〜1LDKの間取りが選べる。家賃は毎月払いの場合で月9万3000円〜9万8100円(ほかに年齢に応じた終身一括前払いや、一部家賃前払いも選べる)で、これに生活支援サービス費月額3万6000円(二人入居の場合54,000円)と共益費3600円が加わる。

【事業化の経緯】団地住民とのコミュニケーション支援を重視

運営はスタッフ6名体制、住棟の隣にある商業棟1階の空き店舗を借りて「フロント」と呼ばれるスペースに365日2名以上が出勤している。キッチンやテーブルを備え、15人程度は集まれるコミュニティスペースにもなっていて、入居者が気軽に立ち寄れるように、コンサートやカフェ、朗読会などの機会も提供している。定例会は2ヵ月に一度、「運営懇談会」を開き、どうしたら長く住み続けられるかをみんなで考えるというかたちで、運営への参加も促している。

また、団地内には食事を提供したり、各種教室などを開催するコミュニティスペースがある。近くの公園では百人規模が集まるラジオ体操が夏の季節毎朝行われるなど、入居者が自然に幅広い年代のコミュニティに溶け込んでいきやすい場が揃っている。団地の自治会にも全員加入を推奨しており、入居3年で役員として活動する人も出始めている。

【事業の特徴】既存の地域資源を生かし、運営スタッフが生活支援ネットワークをつくる

(株)コミュニティネットは、ハウス長と生活コーディネーターを配置し、生活支援を行う。たとえば看取りまでを視野に入れた「ライフプラン」を作成してもらい、入居者一人ひとりの希望を把握した上で、地域情報を提供したり、地域包括支援センターやケアマネージャーと連絡をとりながら地域のサービスを紹介している。スタッフのフロント出勤時間は朝9時から夜6時までのあいだで、夜間は警備保障会社と連携している。

毎日の安否確認は、手のひらサイズの携帯端末を利用。ボタンを押すと、フロントスタッフにメールが届く。定時(朝10時)までにメールが届かない場合、電話をかけたり、住戸を訪問。携帯端末のストラップを引くと緊急通報となり、ゆいま〜ると連携して警備保障会社が対応にかけつける。ボタン一つで、警備保障会社の看護師に連絡することもできる。

このように既存のサービスを組み合わせ、自前で多くを行おうとしないということは、運営スタッフが地域の医療や介護サービスに精通している必要がある。このため(株)コミュニティネットでは「ゆいま〜る高島平」の事業化が決まると、関係者が団地内に引っ越して地域の一員となり「高島平団地で暮らし続けるしくみをつくる会」を立ち上げ、オープンまでの約2年間月1回のペースで、入居検討者と既存の団地住民も巻き込んで高齢期の住まい方や仕組みについて議論したり、エリアを担当する福祉事業者とのネットワークづくりにあたってきた。特にハウス長となるスタッフは地域プロデューサー的な視点ももつべきだという、(株)コミュニティネットのユニークな人事システムだ。

【入居者の評価】過干渉を嫌う元気な高齢者に好評居室の広さと価格のバランスも魅力

「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」」は国が登録制度を開始して以降、条件を満たせば補助金や税制上の優遇措置が受けられるとあって右肩上がりに増え続け、わずか6年で21万戸を越えている。
ただし大多数はひとつの住棟に高齢者だけが暮らし、そこに運営会社の職員も常駐するスタイル。限られたコミュニティ内の閉塞状態に陥りがちで、精神的な不満が生まれることも多いという。その点、適度に分散した空室を活用した「ゆいま〜る高島平」は精神的に解放感があり、男性単身者の入居希望が比較的多いという。入居者の平均年齢は現在78.3歳、42戸中39戸が稼働している(2017年12月現在)。

同額程度のサ高住と比べると、かなり広いことも人気の理由。特に一戸建ての持ち家をたたんで引っ越してきたような、地方からの入居者の満足度は、そのあたりにあるようだ。
今後は、通常の賃貸に空き住戸が出しだい、個室数を増やしていく考えだ。

【今後の展望】蓄積されたノウハウを生かして全国に展開事業モデルをさらに磨きたい

(株)コミュニティネットは現在、このような団地の空室を活用した分散型サービス付き高齢者住宅を、全国で10ヵ所程度まで増やしていく考えだ。いくつかの公社やUR、民間事業者と具体的な準備を進めているが、2棟目が名古屋市に誕生した。愛知県住宅供給公社が管理する1973年建設の大曽根併存住宅の計40戸を、第1期「ゆいま〜る大曽根」として2017年9月にオープン。2019年度までに70戸を順次改装していく予定だ。約50m2の1LDKのバリアフリールームや生活支援サービスは、高島平のノウハウを導入。一般的な新築のサ高住と比べると、半額程度(家賃6万8300円〜7万6000円)の設定を実現し、オープン前に住戸全体の8割を超える申し込みがあった。

「ゆいま〜る大曽根」での新しい試みは、「フロント」とは別に、約1000m2の広さがあるスーパーの跡地を活用して地域のコミュニティスペースを設ける計画だ。レストランや物販コーナー、文化教室などが入る予定で、地域の資源リサイクル拠点として周辺住民が利用することも想定した「資源カフェ」というユニークな試みも行う。長年地元で障害者を支援してきたNPO法人わっぱの会が運営を行い、高齢者や障害者が垣根なく働くことができ、世代を超えて地域交流ができる場を目指す(2018年3月31日にオープン予定)。

最近では通常の不動産ルートでもサ高住が紹介されるようになってきた。比較される物件が増え、地域での選別が激しくなるなかでも、広さと価格という非常にわかりやすい競争力が、強みを発揮するだろう。

ゆいま〜る高島平
所在地 東京都板橋区高島台2-26-2号棟内
最寄駅 都営地下鉄三田線「高島平」駅より徒歩11分
住 戸 鉄筋コンクリート造11階建て(1972年築) 42戸
運営者 株式会社コミュニティネット
HP http://yui-marl.jp/takashimadaira/

ゆいま〜る大曽根
所在地 愛知県名古屋市北区山田2-11-62
最寄駅 地下鉄「平安通駅」から従歩10分、
JR・名鉄・地下鉄「大曽根駅」から徒歩12分
住 戸 鉄骨鉄筋コンクリート造11階建て(1975年築)40戸
(2018年に第2期オープンの予定)
運営者 株式会社コミュニティネット
HP http://yui-marl.jp/ozone/