新たな社会的住宅事例集

【case8】ウェル洋光台

もちよる暮らしで、コミュニティの“自然栽培”を試みる

若者向けのシェアハウスの運営が行き詰まった後、子育て世帯もリタイア組みも外国人の短期滞在も受け入れるコミュニティー型シェアハウスとして運営方法を一新。ハードには多大な改装費をかけることなく、多世代入居コンセプトシェアハウスへのシフトチェンジを成功させたのが、「ウェル洋光台」の戸谷浩隆氏だ。
現在はオーナーから一棟を借り上げ、自身も家族でそこに暮らしながら持続可能な運営を実践中。シェアハウス業界全般の経営にも造形が深い戸谷氏に、「ウェル洋光台」の運営の秘訣を聞いた。

【建物の状況】入居率4割以下になったシェアハウスを「子育てもできるシェアハウス」にコンセプト替え

「ウェル洋光台」は駅徒歩3分、丘の上の閑静な住宅街に位置する。1971年に社員寮として建てられた地上3階建てのRC造の建物を、オーナーM氏自身がリノベーションを施し、2006年から菜園付きシェアハウスとして運営していた。コンセプト型シェアハウスの先駆け的存在でもあり独身男女が集う人気物件となったが、開業5年目頃には共用部が荒れはじめる。2013年当時には総戸数23戸で居住者9名まで低減していた。
困ったM氏は、元入居者で交流が続いていた戸谷浩隆氏に相談。戸谷氏は結婚して一度は“卒業”したハウスに一家で戻ることを決め、「ウェル洋光台」の再生計画を始めた。それは「ハウスを多世代化して、戸谷家が子育てしながら10年スパンで暮らし、ハウスの核になってコミュニティを安定させる」というものだった。

【事業化の経緯】家具のレストアでカフェ風に魅力アップスローなライフスタイルに注目が集まる

リニューアル時にかけた改装費は約500万円のみ。築40年の建物を生かしつつ、レストアしながら使う方針をとった。住人との協業によりキッチン+家具+雑貨450万円、+収益性向上による追加費用250万円(トイレ2ヶ所)で改装を実現した。募集は「Colish」と「ひつじ不動産」の小額広告とFacebookだけで23室中18室を埋め、半年後には再びウェイティングリストがある状態にまで運営を戻すことができた。
ネットを通じて注目されたのは、やはりコンセプトが時代に合っていたからだといえるだろう。

    畑、手仕事、おうちカフェ。
    ずっと暮らせる国際村。
    住人とオーナーの恊働で、
    シェアハウスの新しい暮らしの形をつくっています。

    駅から徒歩3分の静かで小さな丘の上。
    小鳥のさえずり、通り抜ける風とさわめく緑。
    広~いお庭を見わたすオープンデッキ。

    お庭もハウスも少しずつつくっています。
    オーナーのますおさんちの実家は、昔ながらの農家さん。
    おばあちゃんに教わりながら、手作り堆肥で育てるお庭のはたけ。

    誰もが何か持ってる特技や趣味をもちより、
    手づくり教室開いたり。
    おいしさとほっとした一息を分かち合う、おうちカフェ。
    子育て世代や動物も加わって、
    もともと、多国籍なハウスがさらに賑やかになります。

    食べること、住まうこと、遊ぶこと、楽しむこと。
    好きなこと、得意なこと、大切にしたいことをわかちあう、
    もちよる暮らしを一緒にはじめませんか?
    (ひつじ不動産での募集文より)

2018年1月現在、個室24部屋に対して単身者から子育て世代、また外国人など33名が暮らしている(小型のペットも可)。子育て世帯は4組で約9m2(6畳)の居室で子育てをしており、戸谷氏自身も6畳で4人家族住まいだ。共用部のキッチンやリビング、テラス付きの広い庭まであるので不便さは感じないという。トイレやシャワー、洗濯室などを集約することで、水道光熱費が約50%OFFのエコロジーライフを実現できるメリットのほうが大きいとのことだ。
ウェル洋光台の契約形態は、半年毎の短期借家契約。家賃は46,800〜51,800円+加算オプション(複数居住1万円/人、未成年は半額)、共益費・管理費11,200円。
一般的なシェアハウスと同様、問題があれば退室を言い渡されることもある。過去実行したのは1例のみ、それは期せずして精神病の急性期を迎えてしまった居住者への対応だったという。厳しい現実に直面しキャパシティ不足を謝罪し、退室してもらうこととなった。その後戸谷氏はなんとかならないかと多くの心理学書を読み、視察を重ねているが対応できる目処は立っていない。

【事業の特徴】サービスなし、当番なし、組織なしマネージメントしない“自然栽培型”コミュニティ

オーナー代行として戸谷氏が目指したのは「できるだけ運営しない運営」。過去の失敗を活かし、人と人との「つながり方」をなによりも大切にする。ガイドも理念も目立たず、邪魔をせず、暮らしを影から守る地味なインフラとしてのコミュニティ運営。すなわちサービスなし、当番なし、組織なし。業者の定期清掃は一切なくなり、住民の自主清掃のみで賄われている。全体会議も特になく、年に1、2度程度大きな問題が起こった時は、なんとなく落ち着かない気持ちの住人たちがラウンジに降りてきて、自然発生的に話すという程度である。住人同士が日常こまめに話すなかで、意見は揃わなくても各人の自由と全体の調和が自然に成り立っていく。ベースとなっているのは「人と人が集まれば、本来は、大切にしあい、贈り合い、日々の小さな事柄を愛おしんで、暮らしていく営みが自然に発生するもの」(戸谷氏)という理念があるからだ。

戸谷氏はクリスチャンとしての学びと、アズワンネットワーク鈴鹿コミュニティなどの取り組みに感化されながら「もちよる暮らし」という理念にいき着いた。「もちより」の例を挙げると、各階の廊下には、図書館のようにたくさんの本が持ち寄りで並んでいる。キッチンには私有物の棚よりも、共用パントリーがより大きくとられ、フリーの食べ物があふれている。出産した人がいると誰かが小さい冷蔵庫をキッチンに置き、各々が各自の食事の一部を新ママのために冷蔵庫の中に入れるなど、困った時には助け合う相互互助の風土が育まれている。コレクティブハウスの仕組みと違うのは、それがみんなで決めた当番制の相互互助サービスでなく、誰も何も決めることのない自主的な贈りあいを重視している点である。

また、賃貸住宅としては考えられないことだが、DIYの得意な入居者たちが参加し、建築家と共同で物置を製作してまうといったことも行われている。木材などDIYにかかった材料費や工賃は、ウェル洋光台からのギフトとしてつくり手に贈っている。
行為や食べ物を贈る。“贈り合う暮らし”ぶりがウェブマガジンGreenz.jpに紹介され、記事はFacebookで1万回以上シェア。雑誌「ソトコト」でも表紙を飾り、「ウェル洋光台」は知られる存在となった。広いキッチンを使っての食のイベントや年一回のオープンデーなども、地域に開いてつながるための試みだ。また、無料の民泊といえるのだろうか、パーマカルチャリストや旅行者、地元で活動する人を「ノマド住人制度」として受け入れたりもしている。

ただし、戸谷氏によれば「不動産という性質上、 注目度上昇による経営への影響は軽微」とのことで、入居者はひつじ不動産経由のごく普通の人と、ハウスメイトの口コミで9割を占めているそうだ。

【今後の展望】いつでも“問題だらけ”で大丈夫持続可能な暮らし方の実験場であり続ける

戸谷氏自身はオーナー代行としてそれほど収入を得ていないが、オーナーM氏には高収益を提供できており、本モデルの収益性は高いといえる。戸谷氏の実感では、建物の規模としては15世帯程度から20世帯以上が運営に最適(より多ければクラスターを作ればよい)。

ウェル洋光台にならったシェアハウスを作りたい人たちの視察も継続的に受け入れており、昨年は、コミュニティ運営のノウハウをまとめた小冊子も製作した。「たった30人前後の人が都市で一緒に仲良く住むだけの小さくささやかな活動が、子育て世代からリタイア世代までを対象とする多世代シェアハウスの次世代モデルとなれればいい」(戸谷氏)と、活動の記録や検証も行っていく。

ウェル洋光台
所在地 神奈川県横浜市磯子区洋光台3丁目
最寄駅 京急線「洋光台」駅より徒歩3分
住 戸 鉄筋コンクリート造 3階建て(1971年築)
運営者 もちよる暮らし舎
HP http://well-yokodai.org/