人の営みの中で暮らす。
肩の力をぬいてムリしない。

共用スペースは高機能なコモンキッチンとコモンリビング
―コレクティブハウジング社の宮前眞理子さんに聞く

女性の社会進出とともに北欧で始まったコレクティブハウス。NPO法人「コレクティブハウジング社」は2003年に日本初のコレクティブハウス「かんかん森」を創設。以来、4件のコレクティブハウスの事業を推進してきた宮前眞理子さん(副代表理事)が語る「スガモフラット」の今。

 震災時も日常の延長線上、コモンリビングで帰宅難民泊める「震災の時、自宅には4ヶ月の赤ん坊と妻だけだったので、とても心配でした。でも地震直後に住宅で仕事をしているAさんが『大丈夫ですか?』と訪ねてくれたと聞き、とても心強かったです。他のハウスの住民間でもメールで安否確認がなされ、『保育園で待機しているBちゃんを迎えに行けますよ』とか『必要な物はありませんか?』といったメールが飛び交っていたそうです。私は早い時間に帰宅できたので、徒歩で帰ってくる住人たちのため、共用スペースのコモンキッチンでカレーを作りました。コモンリビングには、“帰宅難民”になってしまった住人の同僚らが泊まっていましたよ。何も特別なことではなく、すべては日常の延長線にあることなんです」
 コレクティプハウス・スガモフラットに住んで5年になるCさんは、こんなふうに震災直後の様子を振り返った。
「コレクティブハウス」とは、各世帯がパス、キッチンなどを完備した独立した住戸に住みながら、高機能な設備があるコモンキッチンやコモンリビングなど、共用スペースを持つことで、住民同士がゆるやかにつながって持らすことができる、賃貸型の集合住宅だ。掃除、戸締まり、菜園や庭の手入れなど、共用スペースの維持、管理は住民に任されている。
「コレクティブハウスは、江川時代の長屋にも通じ、コモンキッチンやコモンリビングは、長屋の人が集まる井戸端のようなイメージでしょうか。ご近所づき合いをしたくても、場所がなければ長続きしない。人と人がつながるために、気兼ねなく集える空間は重要です」と話すのは、宮前眞理子さん。
 住人が持ち回りで調理を担当し、希望者が食事をとれる「コモンミール」も特徴的だ。月一度の当番をこなせば、後の日は他の人が作った「コモンミール」を食べることができる。家事の軽減だけでなく、他の住人と一緒に温かい食卓を囲んだり、もちろん自宅スペースに持ち帰って食べることもできる。プライベートな空間と共用の空間の距離感がほどよく、プライバシーが守られた上での共同生活がここにある。

気負いゼロ。
住民同士がつながったら、自然に地域に聞かれた

 コモンキッチンやコモンリビングは、スガモフラットの外にも開かれている。取材前日の日曜日には、誰でも食材を一品ずつ持ちよれば参加できるランチの会が開催されていた。「地元在住のアーティストとワークショップをやったり、子育て中のお母さんのためのリフレッシュ講座もあるんですよ。続ける秘訣はムリをしないこと。“地域とつながろう”とか、地域コミュニティを活性化させようといった気負いはゼロ(笑)。肩の力を抜いてやっています」と住民のCさんは話す。
 スガモフラットの住人同士がつながったら、その輸が自然に外に向かって開いていった感覚に近いのだという。
 スガモフラットでは、月に一度、定例会が開かれ、生活上の細かな問題について意見が交換され、対策が講じられていく。“代表”や“長”といった役に集約せず、広報係、大家対応係など、仕事を細かく分担し、住民全員が何らかの役割を持つようにしているという。「最近、若い人たちを中心にシェアハウスが人気ですが、共用スペースの掃除などは外部業者に委託といったタイプも多いと思います。でも居住者の自発性、自主性を大切にするコレクティブハウスでは全て自分たちで考え決めます。“サービスする側”“される側”という関係でない、フラットな関係が人と人のつながりを生み出していくのではないでしょうか」と宮前さんは話す。
 コレクティブハウジング社が日本初のコレクティブハウス「かんかん森」を作ったのが2003年(※)それ以降、3軒のコレクティブハウスが新たに加わった。
 コレクティブハウスは、女性の社会進出とともに北欧で始まったもの。家事や育児を分担し合うことでとで生活の質を上げ、生活しやすくするというものだった。日本の場合は、各ハウスによって異なるものの、シングル世帯の入居率が高いのが特徴だという。スガモフラットは5割がシングルだ。
「もっとも多く問い合わせをいただくのが、30代のシングル層なんです。一人暮らしを続けながら“この先もずっと一人ではないか?”という将来への漠然とした不安を抱きつつ、“人とつながりたい”と入居を希望する人が男女とも増えています。平日は仕事が忙しく、自宅と会社を往復するだけの毎日。ご近所とつながりたいと思っても、都心のマンションでは隣に誰が住んでいるのかさえわからない。そんな日常の突破口として、コレクティブハウスを考えるようです」

約100人が待機中
共に事業をする地主・大家募集中

 コレクティブハウスには、日頃接点がない多様な人たちと出会う機会がある。住人の子どもが成長する様子を見守ったり、年の離れた住人から料理を教えてもらったり…。日常の中で、世界を広げていくことができるのだ。
「人の営みの中で暮らす事はとても大切です。一人家に帰り、コンビニで買ってきたご飯を食べるのではなく、手づくりのおいしいご飯を食べることで、自分が大事にされていると感じることができる。それが気持ちのゆとりを生み、別の誰かを大切にしようという気持ちにつながっていくのではないでしょうか。自分一人のことで精一杯な日々から、人のことまで思いやり考える生活にシフトすることで、自分の生活が豊かになっていくんです」と宮前さん。
スガモフラットに住んで2年になるDさんは、4ヶ月前に母親になったばかり。
「昨日、子どもをだっこして買い物に行くのは大変だなと思っていたら、隣に住む小学生のEちゃんが『一緒に行くよ』と荷物を持ってくれました。自然なつながりが日常にあるのが、スガモフラットなんです」
 現在、コレクティブハウスに入居したいという人が100人いるがハウスが足りない状況だ。コレクティブハウジング社では、共に事業をする地主・大家を募集しているという。
 一人で暮らす事に限界を感じるシングル世帯、育児の悩みを抱えている核家族世帯、いざというときに不安を感じている高齢者世帯など、誰もが孤立への不安やリスクを感じている時代。多様な人たちがつながることのメリットは、自己防衛やリスク管理という側面だけにあるのではない。人とゆるくつながることで心が満たされ、生活を楽しみ、さらにその輪を広げていこうという、ポジティブな気持ちになれるすばらしさをコレクティブハウスに暮らす人たちが証明してくれているようだ。(飯島裕子)
(※)ビッグイシュー2号(03.11.6)で記事掲載


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