新たな社会的住宅事例集

【case13】タウンコレクティブ

空き家活用による日本型コレクティブハウジングの試み

NPOコレクティブハウジング社は、集合住宅としてのコレクティブハウス事業を進めることが王道ではあるが、寄せられる居住希望者のニーズに応える必要性もあり、戸建て空き家を活用しながらコレクティブハウスに近似した住まい方=タウンコレクティブというハウジングも展開している。
戸建て住宅に複数名が暮らす専有空間と、地域にも開かれたコモンスペースをつくり、そのコモンスペースを核として地域に多様な人のつながりが広がることを目指し、これまでに6軒の「タウンコレクティブ」を生み出している。

【建物の状況】テレビ、ピアノ、食器などを残したまま4人まで住める“戸建てシェアハウス”化

都営地下鉄大江戸線「新江古田」駅から徒歩4分。昭和の戸建て住宅が建ち並ぶ一角にある、庭付きの瀟洒な家。1982年に建てられた2階建て4LDKの家は両親亡き後、50代の子どもに相続された。その後、孫夫婦が住むことになって内装の改修や耐震工事を施したが、数年後に海外移住が決定し、再び空き家となることになった。

オーナーのA氏は、シェアハウスとして貸し出せないかと考えて事業者に相談したところ、元からあったピアノや調度品、食器など、全室の家具を片付けなければ扱えないと断られた。その後でCHCが相談を受け、家具付きで借りることや、階段下の小部屋を物置としてオーナーが使うことなどを取り決めて、CHCが提案する「タウンコレクティブ」として活用することになった。
耐震補強等はすでに済ませていたため、タウンコレクティブとして活用するにあたって行われた改装工事は、トイレの増設(2カ所から3カ所へ)と洗面台の増設(1カ所から2カ所へ)、個室の鍵、およびオーナー用の物置スペースの改修。費用約150万円はオーナーが負担した。
【建物の状況】テレビ、ピアノ、食器などを残したまま4人まで住める“戸建てシェアハウス”化

【事業化の経過】小規模でも基本は自主運営、自主管理組合を設置

2013年6月、「タウンコレクティブ新江古田(通称、エコダハウス)」が誕生。居住者はオーナーと直接、2年ごとに更新する賃貸借契約を結んでいる。CHCはオーナーとの間で運営支援契約を交わしている。このような最大でも4名という小さなコレクティブハウスあっても、入居者はCHCの会員に限ることとし、自主運営のための居住者組合を作ることが、契約書の中にも明記された。共益費なども居住者組合で金額を決めて運営するものとした。

オーナーが貸し出している居室は①10帖、②10帖、③4帖、④8+4帖の4室で、広さに応じて賃料は月額40,000〜75,000円と設定した。専有の居室に加えて、居住者はコモンスペース(キッチン、ダイニング、リビング、テラス)が使える。

また、オーナーが「庭の手入れは私たちにもさせてほしい」と申し出たため、庭は居住者とオーナーの共同管理となっている。庭仕事の後は家に入って水道を使うなど、オーナーと居住者が柔軟性をもってひとつの家を利用している点も特徴的だ。
また、自主運営という点では、小規模ながらCHCがサポートして行う居住者組合の定例会を2ヶ月に1回、コモンミールも2ヶ月に1回「小さなコモンミール」と名付けて行っている。
「エコダハウス」独自の活動としては、リビングに置いてあるピアノを活用して「ピアノサークル」を結成。東京ではピアノを持てない、でも練習したいというCHCの会員に声をかけ、1回200円を払えば自由に弾いてよいメンバークラブとした。利用料はピアノの調律代に充てられる。

【事業の結果】居住者は20〜60代の単身者コレクティブハウス間での移動・交流も

「エコダハウス」にこれまでの入居した人のプロフィールは20代から60代までの単身者とカップル1組。2018年1月現在は、50代の男性1名、30〜60代の女性3名で満室だ。
入居者募集は原則として、まず「コレクティブハウス居住希望者の会」の会員から行われる。CHCの会員としてすでに一定のつながりをもっており、シェアハウスとコレクティブハウスの違い等も理解している人たちが入居することが、トラブルが起きにくい要因にもなっている。

また、タウンコレクティブへの入居の理由も「本当はコレクティブハウスに住みたかったが、仕事場から通える場所になかったため」と「コレクティブハウスに住んでいたが、仕事の都合上もっと広い部屋に移りたかった」というものが聞かれた。まだ事業数は少ないものの、コレクティブハウス間〜タウンコレクティブ間での、人の移動や交流が起きていることがわかる。
【事業の結果】居住者は20〜60代の単身者コレクティブハウス間での移動・交流も

【今後の展開】家賃を安く抑え、共に暮らす空き家活用のコレクティブハウジングも有効

CHCの会員組織「コレクティブハウス居住者会員(すでに住んでいる人)」の会員数は70人を超えており、これに将来住みたいと考えている人「居住希望会員」の数を足すと150人に達する。さらに既存の居住者と居住希望者が交流したり、情報交換をする場として「暮らす会」という活動も会員内で自発的に生まれており、コレクティブハウスに住みたい人の交流の輪が広がっている。

CHCにとっての今後の課題は、空き家を活用したタウンコレクティブによって、家賃が比較的割安なハウスを増やし、空き家を活用しつつ地域とのつながりを生み出していくことだ。民間事業としてのコレクティブハウスは、家賃は市場並みである。事業としては採算ベースだが、それでは入居できない人もいる。豊島区の居住支援協議会のメンバーとしても活動しているCHCは、そこをカバーする意味でもコレクティブハウジングの考え方を活用しながら、単身者でも孤立しない住まい方として、戸建て空き家を活用したタウンコレクティブにも積極的に取り組んでいく予定だ。

【今後の課題】2年半で事業終了となった「タウンコレクティブ上北沢」の教訓

最後に、「エコダハウス」に続いて事業化した「タウンコレクティブ上北沢」のケースについても触れておきたい。

上北沢のとある戸建て空き家では、約650万円をかけてオーナーが耐震補強や改装を行った。うち200万円は「世田谷区らしい空き家等地域貢献活用モデル事業の助成」を受けて、「タウンコレクティブ上北沢」として2016年にオープンした。
1階と2階に20〜50代の居住者が住みつつ、日中は仕事で誰も使わない1階のコモンスペースを地域の福祉系団体に開放。「地域共生のいえ」の第二センターとして、毎週子どもの学習支援ボランティアや食事会が行われたり、月に1回は助産師会主催の妊産婦さんケアのセミナー会場として貸し出されるなど、地元のネットワークを生かして有効活用されていた。

しかし、家は施設に入っていた90代の親の名義であり、その方の突然の死去によって相続が発生、売却せざるを得ず、わずか2年半で補助金を受けた事業を終了することになった。
戸建て空き家の所有者は、高齢者のままであることが多い。相続税法のもとに強制終了となるのであれば、だれもコストをかけて事業化はできない。高齢者名義の戸建てを使う場合のリスクと、活用の持続可能性を、相続人とも話し合って理解してもらい、適切な条件を検討して事業をスタートする必要性を感じた。
【今後の課題】2年半で事業終了となった「タウンコレクティブ上北沢」の教訓

タウンコレクティブ新江古田(エコダハウス)
所在地 東京都練馬区豊玉北1丁目
最寄駅 都営大江戸線「新江古田」駅より徒歩4分
住 戸 木造2階建て(1982年築)
事業者 個人オーナー
運営支援 NPOコレクティブハウジング社
居住者ブログ
http://town-collective-shin-egota.blogspot.jp/