新たな社会的住宅事例集

【case12】コレクティブハウス巣鴨

児童館から「コレクティブハウス」にコンバージョン

コレクティブハウスとは1970年代北欧から広まった居住形態。居住者が台所や居間など空間・時間の一部を合理的にシェアしあう協同居住型の住居を指す。シェアハウスと異なるのはトイレ、浴室、キッチンは専有部に持ち、生活の独立性も高めている点だ。居住者は専有部分に加えて、大きなキッチンやリビング、ランドリーなどを共用の「コモンスペース」として使う。また自主管理も大きな特長で、居住者がハウス全体の運営ルールを決め、交代で食事を作ったり、コモンスペースの掃除や修繕も行う。
児童館から「コレクティブハウス」にコンバージョン

【建物の状況】都心の児童館が退去したフロアを用途変更多様な世帯が暮らせるコレクティブハウスに

建物は平和不動産(株)が分譲した1993年築のマンション(地上14階、地下1階)。新築時、その2階部分約500m2は業務系の用途とされ、豊島区の児童館がテナントとして入居していた(所有権は平和不動産ともう一社が保有)。少子化の影響を受けて2005年に児童館が小学校の空き教室に移転することが決定し、後継テナントを探すことになった。

しかし、都営三田線「西巣鴨」駅から徒歩6分という場所はオフィス立地としては弱く、約500m2という広さも活用しにくく、「白山通りに面した150m2だけ借りたい」という引き合いはあっても残りのスペースにテナントがつかなかったという。平和不動産では美容院、学習塾、消費者金融、トランクルームなどさまざまなテナントを検討、賃貸ワンルームにすることも考えたが、管理組合から居住環境に配慮したリーシングを求められていたことなどから難しかった。
そこに「賃貸形式のコレクティブハウス」の共同企画がNPOコレクティブハウジング社(以下、CHC)と都市デザインシステム(UDS)の2社から持ち込まれた。日本にはまだ例の少ないコレクティブハウス事業に興味をもち、管理組合の支持も得て、用途変更、確認申請を東京都に出し、コレクティブハウスへのコンバージョンが決定した。

【事業化の経緯】設計段階から居住希望者が参加、ワークショップから自主管理組合へ

コンバージョン工事は、平和不動産が共同オーナーから所有権を約5500万円で買い取った上で実施した。工事では水廻りの配管工事のため床を25cm上げたが、もとの天井が3.3mもあったため、工事後も2.4m以上を確保できた。管理組合の意向からファサードの変更(外壁変更、バルコニー設置)は行なえなかったが、元のFIX窓を引き違い窓に変更して居住性を確保した。
また設備的な制約があり、キッチンが窓辺側、寝室が廊下寄りになるという一般的な住戸の間取りとは逆となったが、コレクティブハウスではお互いが知り合いという安心感がベースとなっている暮らし方であるため、特に問題とならなかった。

コンバージョン後の住戸数は11戸(シングル4戸、ファミリー3戸、シェアルーム4戸)。コレクティブハウスの規模としては小規模だが、コモンスペースの比率を約20%と高く確保し、生活環境の快適性を高めた。内廊下は幅1.8mで、ここもひとつのコモン空間と位置づけられている。
コンバージョンの総改修費は約7000万円強(一戸当たり600〜700万円)。賃料は専有面積10m2のシェアルームが月額5.3万円、53m2のファミリータイプで14.5万円に設定。専有部分の広さに按分して、コモンスペースの賃料も含まれているので、専有面積でみると周辺相場より高くなっている。通常の賃貸物件では共用廊下の管理は大家側の負担だが、コレクティブハウスの場合は廊下も含めて居住者組合の自主管理となり、大家側の管理負担が抑えられている。

最初の入居者募集は、CHCが組織する「コレクティブハウス居住希望者の会」を通じて行われた。設計の段階からワークショップを実施、入居希望者が事前に顔を合わせる機会を設けてきた。設計にも住まい手の意見を反映し、入居後半年までの間に20回以上のワークショップを重ねて、居住者自らの暮らしの運営について検討を重ねながら、自主運営を実現していった。竣工の2007年1月末時点で全11戸の入居者が決まってしまっており、やむなく入居希望者のウェイティングリストが作成される状態だったという。コレクティブハウス巣鴨の愛称「スガモフラット」という名称も入居者同士で話し合い、決定した。
【事業化の経緯】設計段階から居住希望者が参加、ワークショップから自主管理組合へ

【事業の結果】居住者の中心は30〜40代ウエイティングリストがつく人気物件に

「スガモフラット」の入居者は0歳の子どもから50代まで幅広く、30〜40代が最も多い。ハウスのコミュニティは「居住者組合スガモンズ」と名付けられ、月に1度の定例会、コモンミール(夕食の共同運営)、テラスのガーデニングの共同作業など、CHCのアドバイスのもと、コレクティブハウスの「セルフワークモデル」と呼ばれる仕組みを導入して、自主運営を行っている。

入居者は、コミュニティが可視化された住まい方をきっかけに、多彩な人とつながることの楽しさを再発見し、コレクティブハウスの中だけでなく外とのつながりも広げようと、活動の枠を広げている。たとえば「みんなの食卓」と題したイベントを開催、業務用厨房設備のあるキッチンと広いコモンダイニングで、地域の人も一緒にランチを作って食べたり、育児カウンセラーを招いて子育てファミリーの交流会「子育てリフレッシュ」を開催したりしている。

【事業の特徴】事業主(大家)、入居者、CHC(運営支援者)三者の対等なパートナー事業により持続性のある賃貸経営を実現する

CHCでは、2003年 に日本初のコレクティブハウス「かんかん森」(東京都荒川区)を立ち上げて以来、新築、空き家活用、公社とのコラボレーションなど、さまざまな形態のコレクティブハウスを数棟つくってきた。コレクティブハウス巣鴨の次に、空き家活用コレクティブハウスの2例目となった「コレクティブハウス大泉学園」のケースも併せて紹介しておきたい。

きっかけは2007年、障害のあるなしにかかわらず共に地域で暮らせるようにと活動を続けてきた社会福祉法人「つくりっこの家」がCHCの講演でコレクティブハウスを知ったこと。“障害者”“高齢者”と対象を区切るグループホームではなく、それぞれが個性や持ち味を生かせる暮らし方を求めて、有志で「大泉学園にコレクティブハウスをつくる会」を結成した。
福祉のまちづくりを推進している練馬区の助成なども受けながら、農協や不動産事業者、区役所などへも働きかけをしつつ、地域限定で建物や土地を探した。並行して、入居希望者を集めて暮らしづくりのワークショップを開催するなど、地道な活動を3年近くも続けた。

空き家や中古アパートは目立つのに、事業主がなかなか見つからない…そんなとき地域住民から寄せられた情報で、取り壊し寸前だった建設会社の2階建て社員寮が見つかり、再活用してもよいことになった。2010年、土地建物の所有者、サブリース事業者(平和不動産)、住まい手、支援するCHCが揃ったかたちでハウスの改修計画がつくられた結果、住まい手の希望も叶えられつつ、事業主の負担も抑えられた「コレクティブハウス大泉学園」が誕生した。規模は面積13m2のシェア住戸と、専有面積19.5m2〜31m2の1Rから2DKまで、合計13戸。既存の設備で使えるものは極力生かすことにより、生活保護需給者でも払える家賃4万円代から入居可能で、人とのつながりを失わない暮らしを実現させている。
【事業の特徴】事業主(大家)、入居者、CHC(運営支援者)三者の対等なパートナー事業により持続性のある賃貸経営を実現する

コレクティブハウス巣鴨(スガモフラット)
所在地 東京都豊島区巣鴨5丁目
最寄駅 都営三田線「西巣鴨」駅より徒歩6分
住 戸 鉄筋コンクリート造14階建ての2階部分(1993年築)
事業者 キモ・アンド・アソシエイツ合同会社
運営支援 NPOコレクティブハウジング社
CH巣鴨HP
https://chc.or.jp/chcproject/sugamo.html
居住者ブログ
http://blog.goo.ne.jp/sugamos2014