【case2】スタイリオウィズ代官山
シングルペアレンツと単身者の混合シェアハウス
渋谷区所有の老朽空き物件を生かして、生活支援型シェアハウスにリノベーションしたのが「スタイリオウィズ代官山」。シングルマザー専用ではないが、子どもと一緒に暮らせる多世代シェアハウスとしてオープンした。
区の子育て支援方針と合致したことにより実現したシェアハウスで、事業主である東急電鉄が手がけるシェアハウスとしても第1号となった。
【建物の状況】小学生までのシングルマザー専用、チャイルドケアの専門スタッフがサポート
建物は、渋谷区所有の鉄筋コンクリート造4階建て。東急東横線「代官山」駅から徒歩2分という抜群の立地に、1965年に建設され、しばらく空き家状態に放置されていた渋谷区所有の防災職員住宅があった。東急電鉄は、渋谷区の公募に、区の施策である「子育て支援」を組み込んで事業を提案。「子どもも一緒に住むことができるシェアハウスプロジェクト」という方針が認められ、同物件を借り受け、同社として初のシェアハウス事業を試みることになった。
企画や設計から参画し、現在は運営を担当している(株)東急ライフィアの露木圭氏(写真)は、「当時、私自身が連日遅く帰り、妻がシングルマザーのような状態で子育てに苦労しているのを体感。子育てをシェアできるシェアハウスというものがあればいいのではないかと、実感として感じた」と語る。
寄宿舎用途となっていた古い建物なので、用途変更するのは非効率ということもあり、耐震補強工事をしたうえで、間取り変更をしながらリノベーションを行い、2014年3月に「スタイリオウィズ代官山」と命名してオープンした(スタイリオは東急電鉄の賃貸マンションのブランド名である)。リノベーションにあたっては、子育てができるシェアハウスということで、一般的なシェアハウスよりも大きなユニットバス、トイレ、洗面所、洗濯室、キッチンなど水廻りを充実させた(子どものいる生活では、朝夕同時間帯に利用が集中するため)。
【今後の課題】ニッチなターゲットをいかに集客するか地方では仕事と住まいのセットがポイント
他にコモンスペースとしては、リビング&ダイニング「GOROMA(ごろま)」、洗濯干用バルコニー、屋上には菜園付きのスペースなどがある。
ソフト面では、(株)AsMamaと提携し、「子育てシェア※」の利用を推奨している。東急ライフィアが主催する入居者と近隣ママサポーターと引き合わせる定期的な交流イベントを、「スタイリオウィズ代官山」の広いリビングで行っている。
※PCやスマートフォンで子どもを預かってもらいたい場所や時間を登録し、同じく登録している顔見知りの会員と助け合う、互助のソーシャルネットワーク・サービス。
【事業の経緯】単身者と親と子どものミックスターゲット多様性のなかでの子育てをコンセプトに
なお、スタイリオウィズ代官山はシングルマザー(ペアレント)限定ではない。「子ども“も”一緒に住める」シェアハウスであって、当初から単身女性も男性も入居OKとしている。シングルマザーだけとすると閉塞感が生じるのではないか? ミックスターゲットが望ましいのではないか?という企画側の想いでもあったが、親子のみと狭めると、エレベーターのない上層階に乳幼児を住まわせるのかという問題と、共用部の利用時間が集中するキャパシティへの懸念など、運営上の判断も大きかった。
シングルマザーが入居に至るには住まいだけでなく「近隣保育園の確保」と「仕事の確保」という条件も同時に揃わなければならない。入居の問い合わせは非常に多いが、保育園の申込み時期を逃すと簡単には転入できないという問題が大きく、そこでつまづき、契約に至らないケースも多い、と露木氏は話す。実際、「スタイリオウィズ代官山」では居住ルールや審査方針の試行錯誤を行い、コンセプトの見直しまで行って、満室になるまでに2014年3月のオープンから約1年9ヶ月後の2015年12月に満室100%を達成、以降は良好な運営をキープしている。
その新コンセプトとは「頼り、頼られる勇気を持とう」。シングルマザー同士で助け合おうと運営側が呼びかけるのは現実的なメッセージではない、いろいろな大人に囲まれて頼り、頼られながら暮らす大人たちの背中を見ながら、子どもが育つ、という考え方に至った。2015年にこのコンセプトを変更してから、入居率も少しずつ上がったという。
現在「スタイリオウィズ代官山」の入居者バランスは、親子:単身者が1:2であるが、子どもの数を見ながら適切なバランスをとりたいと考えている。区に提案した「子育て支援シェアハウス」のコンセプトを大切に、適正なバランスでミックスターゲットを維持する予定だ。
【事業の現状】子どもと接することに、単身者も慣れていくミックスターゲットが好評
個室の広さは10.45m2〜15.97m2の1Rのみで、全部で21戸を賃貸中 (賃料は7万6000円〜9万8000円/月、別途共益費として親子で2万円が必要)。入居者は、単身者は男女半々で20〜40代、親子はいちばん大きい子が小学3年生(2017年10月時点)。
入居者側から見た評価については、「子どもがいるシェアハウスというのは、単身者にとっても安らぎと安心感がある」という。また、シングルマザーの入居者にとっては「単身者と一緒に、自分も独身時代に戻ったような感覚で、夜リビングで飲んだりできるのがいい」という。
単身男性の入居者のなかには、「いつか自分も子どもを持つかもしれないが、考えることが不安ではなくなった」と言った入居者もいるという。「多様性があるというには大げさだが、“親戚のおにいちゃんと子ども”のような、いい距離感が保たれていると思う」と露木氏はみている。
一方、運営側としては入居審査には非常に気を配っている。「離婚調停中の人など、親権や別居の合意ができていない段階では、トラブルになりやすいので慎重に判断している。実は、問い合わせや見学自体は離婚していない人も非常に多く、これほど離婚を考えている人たちが多いのかということに驚いた」と露木氏。
また単身者の入居基準についても、特に明文化していないが気を遣っている。特に、単身男性の子どもへの対応力。内見の段階で会話をしながら、子どもとつかず離れずの適切な距離がとれそうな人かどうかを管理者として判断し、不適切と思えた場合はお断わりすることもあるという。
そのほか、運営のポイントとしては、居住者からクレームやトラブルの情報が上がってきたときは、アンケートを実施するなど、管理会社としてすばやく対応することも重要だという。すべてできないことも多いが、そのようなときも「なぜできないか」を明確に説明するようにしている。クレームを言われるのはいい関係を築けている証拠と考え、管理担当者はコミュニケーションに気を配っている。
【今後の課題】家族の多様化に対応したさまざまなかたちの住宅供給の必要性は
子育てできるシェアハウスを、今後増やすのかという方針は決まってない。「社会性の高い事業ではあるが、さまざまな条件が揃ってはじめて実現したものなので、まずはこの事業を長く継続するため、属人的になりがちなコミュニティ運営を組織的にこなせるよう、運営ノウハウの蓄積と共有を図っていきたい」と露木氏は話す。
首都圏に広く普及したシェアハウスもエリアによってはすでに飽和した感がある。東急沿線でも駅からの距離が遠いところなど、集客的に厳しくなっている物件もあると聞く。
「どのような条件の空き家であれば活用できるかを問うより、事業自体が地域のニーズに符合しているかどうかを、どうやって見定めるかが課題。ニーズは常にアンテナを張りながら発見するものであり、マーケティング会社の調査レポートだけでは出てきません。そもそも事業を行う側が『これをやりたい!』と本気で思うかどうかにかかっていると思います」(露木氏)。
シェアハウスに限らなくても、差別化としてのコミュニティ型賃貸住宅は、今後ますます増えると予想される。スタイリオウィズ代官山の場合、区所有の建物を利用するうえで利益の最大化はもちろん、社会的意義とのバランスの上で成り立っている事例だが、今後は社会ニーズとして「家族の多様化」に対応した、さまざまなかたちの住宅供給を試みていく必要はあるのだろう。
スタイリオウィズ代官山
所在地 東京都渋谷区恵比寿西2丁目
最寄駅 東急東横線「代官山」駅より徒歩2分
運営者 東急ライフィア株式会社(事業主 東京急行電鉄株式会社)
HP http://stylio.jp/with/daikanyama/