新たな社会的住宅事例集

【case6】COCO湘南

“COCO湘南モデル”共同運営型グループリビング

グループリビング「COCO湘南台」はNPOが運営する高齢者住宅の先駆的存在であり、いまも高齢者グループリビングの一モデルとして参照されている。建物は新築の一括借り上げであり、事業開始から18年経った現在も高稼働を続けている。一方、オープン時には想定されていなかった運営の課題も生じているという。その現況を取材してみた。
“COCO湘南モデル”共同運営型グループリビング

【事業化の経緯】入居者自身が自主運営、自由と尊厳のある終のすみか

COCO湘南台の創設者、西條節子氏は藤沢市議会議員を務め、障害者のための作業所やグループホーム、通所施設づくりに尽力してきた女性。市議を引退し、70代を目前にして「バリアフリー高齢者住宅研究会」を立ち上げ、自立と共生のグループリビングを作ろうと活動を始めた。研究会には、建築家や福祉介護関係者、学識者や市民活動の関係者など16人が参加。海外の経験者が多く、11カ国の高齢者の先進的暮らしの視察体験を土台に、毎月1回、約3年間研究会を重ねた。

土地なし、資金なしの状態からスタートしたが、研究会が作成した「暮らしの提案書」に共感して事業化に応じてくれたのは、約300坪の梨畑を所有する女性地主であった。ちょうど湘南台のまちは開発期にあり、相続対策を必要としていた地主は1億円の借り入れを起こして建物を建設、運営するNPOと一括貸しの契約をする方法をとった。建設費のうちの約40%を、入居予定者10名が370万円ずつ用意した入居一時金(20年間均等償却で共用部分家賃前払い相当)でまかなった。
1999年4月、「湘南台」駅徒歩10分、土地約280坪、木造二階建ての「COCO湘南台」が完成。個室10室(面積25 m2)と共用部250m2(天井吹き抜けの大食堂・リビング、ゲストルーム1室ほか)からなる建物が新築オープン。入居者10名の共同運営型グループリビングがスタートした。
【事業化の経緯】入居者自身が自主運営、自由と尊厳のある終のすみか

【事業の特徴】贅沢でも質素でもない、ほどよい暮らし交流拠点「COCOみちしるべ」も併設

入居資格は、原則として65歳以上の男女(障害者は55歳)。生活費は毎月137,000円で固定すると、年金で払える程度の暮らしを想定して研究会で決定した。入居金としてまとまったお金は出せてせいぜい300万〜400万円位と話し合って決め、贅沢な有料老人ホームではなく、質素でもない暮らしを目指した。生活費の内訳は、家賃分として70,000円。30,000円が食材費、21,000円が家政費(共有スペースの掃除の人件費が含まれる)。残りの16,000円は共益費(共有スペースの電気代・水道代)とされ、この金額は現在まで変わっていない。電球の付け替えなど生活の細々としたことの手伝いをするライフサポーターを配置したことも特徴的だ。

西條氏が初代理事長を務めた「NPO法人COCO湘南」は、自らのグループリビングの運営だけでなく、地域づくりに関わる各種団体をつなぐ交流の拠点づくりにも貢献。2008年6月にはCOCO湘南台の敷地内に「COCOみちしるべ」を開設した。日曜祭日以外の10時から16時まで、地域のコミュニティカフェとして軽食や喫茶、お年寄りの相談やイベントなどを行うスペースとして機能している。「COCOみちしるべ」はワーカーズコープやボランティアスタッフで運営されている。

また、NPO法人COCO湘南は、2003年には「COCOありま(海老名市)」、2006年には公益財団法人JKAの助成を受けて「COCOたかくら(藤沢市)」を開設、3つのグループリビングを運営し、容易に住み替えや交流ができるようにすることを目指した。COCOありまは交通の便が悪いなどの条件からなかなか満室にならなかったため、2015年に建物を他の運営主体に引き継ぐ道筋をつけて、居住者をCOCO湘南台とCOCOたかくらに集約し、現在は2拠点となっている。
【事業の特徴】贅沢でも質素でもない、ほどよい暮らし交流拠点「COCOみちしるべ」も併設

【今後の展望】加齢と居住者の入れ替わりに対応した持続的な運営をめざして

オープンから最初の10年は安定的に運営されていたが、次の10年目〜15年目で病気入院や死去などで入れ替わりが多くなっていった。18年目の現在は、オープン時からの入居者は西條氏ひとりになっている。その西條氏も89歳となり、入居者自ら運営することを原則としてきた「COCO湘南台」の運営システムを見直す必要が出てきている。

2016年からは、西條氏と親交のあった大江守之氏(現在、慶應委義塾大学名誉教授)が理事長を務めている。現在もマスメディアで「COCO湘南台」が取り上げられるたびに入居の問合せがあり、全国各地から新たな入居者が集まってきている。その点では充分に高稼働は維持されているのだが、常時10名満室を前提とした運営システムが、増加する事務量への対応を難しくしている。
理事は全員無償ボランティアであり、西條氏と古くからつながりのあるスタッフが有償ボランティアとして事務局運営を行っている。新体制のもとで今後どのようにして継続可能な住まいの運営へと移行させていくかが課題となっている。

また、これまで夕食づくりはワーカーズコープに委託、10人分を作りにきてもらっていたが、地元のワーカーズコープもメンバーの減少や高齢化が進み、毎日の調理は困難になってきた。この点は、さいわいにも近隣に小規模多機能サービスを行っている「あおいケア」があり、週に1回はそちらの厨房からケータリングとして配食してもらうなど、複数のサポートを組み合わせ、柔軟な外部支援体制をとることができた。今後はこうした経験や将来の変化を見通しながら、「住む」ということに伴う切れ目のない安定性、持続性の確保のために、理事会として事業体としてのあり方を検討していくという。

現在、COCO湘南台をモデルとして建てられた全国10のグループリビングを含む16の団体が参加した「グループリビング運営協議会GLnet」が発足(2012年)し、それぞれの団体が蓄積してきた経験や知見をもとに、運営者、居住者、研究者らが相互に学びを深めているところだ。

COCO湘南台
所在地 神奈川県藤沢市湘南台
最寄駅 小田急線・相鉄線・横浜市営地下鉄「湘南台」駅より徒歩10分
住 戸 二階建て木造住宅(1999年築)
運営者 NPO法人COCO湘南(理事長 大江守之)
HP http://www.coco-shonan.jp/